歴史の裏で暗躍する無頼漢
幕末の安馬藩には、野村重太郎という剣の腕が立つ藩士がいた。重太郎は欲がなく、百姓たちと共に農作業に励み、市井の人々と触れ合いながら生活することを好んでいた。ある日、重太郎は家老の娘・沙織を江戸まで送り届ける任務を託されるが、その途中で滝壺に落ちてしまう。偶然居合わせた勝蔵に助けられた重太郎は、事故で死んだと思われていることを利用し、侍を辞めて無宿人の「十蔵」として生きることを決意する。浪人となった十蔵は、世話になった庄屋を襲う強盗を退治したり、清水に縄張りを持つ俠客「清水の次郎長」を巡る騒動を解決に導いたりと、日本各地で活躍し、やがて幕末から明治にかけて裏社会で名を馳せることになる。
十蔵とかかわりを持つ偉人たち
十蔵は、裏社会で名を馳せた博徒として知られているが、幕末から明治にかけて活躍した偉人たちとも交流を持っていた。清水次郎長を巡る騒動では、若き日の坂本龍馬と共に行動し、彼に一目置かれる存在となる。京都を訪れた際には新選組の隊士と出会い、沖田総司との対話を通じて、武士や浪人のあり方が大きく変わることを悟る。こうした出会いを重ねる中で、十蔵は多くのならず者から慕われると同時に、表社会や裏社会を問わず名を知られるようになり、やがてその名声は日露戦争にまで影響を及ぼすことになる。
友のために命を賭ける十蔵
勝蔵は、十蔵が「野村重太郎」として任務に就いていた際に、滝壺に落ちた彼を救助した人物であり、十蔵が流れ者となるきっかけの一つとなった。十蔵が武士を辞めるのを見届け、その後再会を果たすと、彼と共に旅をするようになる。京や大坂などさまざまな地を巡り、十蔵と別れた勝蔵は討幕派と手を結び、赤報隊の一員として活躍する。しかし明治4年(1871年)、勝蔵が捕らえられ、甲府の刑場で斬首されることが決まったという知らせが十蔵のもとに届く。それを聞いた十蔵は、理不尽な理由で親友の命が奪われようとしていることに激怒する。そして、勝蔵の処刑を阻止するため、かつて旅先で出会った仲間たちを率いて、官軍との壮絶な戦いに挑む。
登場人物・キャラクター
十蔵 (じゅうぞう)
幕末の日本をさすらう浪人の男性。仲間からは「安馬の十蔵」と呼ばれている。旅の僧侶を名乗り、日本各地を巡っているが、実はかつて「野村重太郎」という安馬藩の武士であったことがのちに明らかになる。自由と人情を重んじ、気に入った相手には心を開いて接する。また、欲望にとらわれず、仲間と楽しく過ごすことが何よりも大切だと考えている。達人レベルの剣の腕前を誇り、争いが起こると、旅先で手に入れた愛刀「備前長船」を携え、先頭に立って戦う。似た者同士の坂本龍馬とはすぐに意気投合したが、桂小五郎とはウマが合わず、一時は刀を交える事態にまで発展してしまう。
勝蔵 (かつぞう)
尊王攘夷派の志士として知られる男性。友情を何よりも重んじ、大切な人を守るためなら、上からの命令を拒否したり、命を落としたりすることもいとわない。藩士時代の十蔵と偶然出会い、彼が武士を辞めるのを見届けると、再会を約束して衣服を交換する。その後、「黒駒の勝蔵」と名乗り、甲州石和宿の賭場で用心棒をしていた時に再び十蔵と出会い、彼の旅に同行することになる。旅の途中でさまざまな経験を重ね、尊王攘夷運動に参加し、十蔵と共に討幕派に身を投じようとする。しかし、坂本龍馬の暗殺をきっかけに十蔵と離れ、単身で討幕派に参加することになる。実在の人物、黒駒勝蔵がモデル。