強烈な個性を放つ不思議な家族
本作の主役である錦久家は、一風変わった家族。マイペースで独特の感性を持つ小説家の父親・隅夫、明るく社交的ながらも怠惰な母親・栗子、クールで面倒見がいいものの要領が悪いドジな長女の茂千、好奇心旺盛でコミュニケーション能力に優れた末っ子・寸助の四人という、個性豊かなメンバーで構成されている。彼らは基本的に仲がよく、互いの個性を尊重し合っている。そんな錦久家の日常は、思わず笑ってしまうようなコミカルなシーンから、家族の温かさに触れるハートフルなシーンまで、ドタバタ劇が繰り広げられる。
錦久家の愉快な仲間たち
錦久家の四人は、家族が独自の交友関係を築いており、特に社交的な栗子と寸助はユニークな友人たちに囲まれている。栗子の高校時代の後輩であるマーサ・オクラホマは、現在ラジオパーソナリティとして活躍中で、水流町の夏祭りでは栗子と即席のバンドを結成し、会場を大いに盛り上げた。一方、寸助の担任教師・小山田は、「久住金雄」の小説の大ファンで、寸助を通じて隅夫に特別授業を依頼する。隅夫はこの経験を基に小説を執筆し、なんと「あちら側賞」に選出されることになる。このように、錦久家の周囲には個性的な人物たちが集まり、物語にさらなる彩りを添えている。
日常の中に垣間見える非日常
本作は、錦久家の日常を中心に物語が展開されるが、随所に現実離れした要素が散りばめられている。たとえば、栗子が即席の劇団員として参加した際、共演者と不可解な呪文を唱え合うシーンや、寸太が夏祭りからの帰り道に闇の中で奇妙な幻覚を見るシーンなど、不思議な出来事が次々と起こる。また、隅夫が小説のアイデアを練る際には、空想の世界に没頭し、周囲を混乱に巻き込むこともある。だが、錦久家の人々がこうした非日常的な状況にも柔軟に対応し、家族一丸となって乗り越えていく姿が、本作の魅力の一つとなっている。
登場人物・キャラクター
錦久 隅夫 (きんく すみお)
「久住金雄」というペンネームで活動している小説家の男性。家族との時間を何よりも大切にしている。特に息子の錦久寸太とは仲がいい。穏やかな性格で人当たりもよく、妻・錦久栗子の両親や友人、さらには娘の錦久茂千や寸太の先生、ほかの保護者とも良好な関係を築いている。また、料理が得意で、栗子の代わりにキッチンに立ち、家族に美味しい料理を振る舞っている。小説家という職業柄、豊かな想像力を持ち、日常の些細な出来事や家族の何気ない行動から面白いアイデアや小説の題材を見つけることが多い。探求心が旺盛なあまり、時には奇行とも言える行動をとることもあるが、家族はそんな錦久隅夫のユニークな一面を理解し、温かく見守っている。
錦久 栗子 (きんく くりこ)
錦久隅夫の妻。家庭では隅夫のアシスタントとして、資料の収集や整理を行い、彼の創作活動をサポートしている。認知症の父親との関係は良好とは言えず、デイサービスに連れて行く際には、隅夫に手伝ってもらうこともある。ふだんはものぐさな性格で、何事に対しても面倒に感じているが、ひとたびやる気を出すと並外れた行動力を発揮する。パンクファッションを好み、地味な外見の家族の中でひときわ異彩を放っているが、以前は娘の錦久茂千と容姿が似ていた。かつて通っていた水流高校では、演劇部と軽音楽部を掛け持ちしており、その時に培った演奏技術と演技力は今でも健在。演劇部のOBが出演した劇では堂々と主役を務め、夏祭りの日には軽音楽部の後輩であるマーサ・オクラホマと共にステージに立ち、観客を魅了した。マーサからは「クリッシー先輩」と慕われている。