手話や演劇をテーマとしたBL
本作は、俳優を目指しているがドラマのオーディションに落ち続ける蒼井藤永と、生まれつき難聴を抱えていて手話でコミュニケーションを図る前島蛍都が主人公を務める。二人は対照的な存在でありながら、共に「言葉を伝える」ことの難しさを理解している。そんな共通点を持つ二人が出会い、キャンパスライフを通じて友情を育んでいく。やがて、彼らの関係は恋愛へと発展し、その過程が美しく繊細なタッチで表現されるラブストーリーが展開される。作中には、CL(類別詞)やノートテイカーといった手話に関する専門用語の解説や、難聴に関する豆知識も盛り込まれており、読者は難聴についての理解を深めることができる。
難聴の大学生×売れない俳優
幼少期から劇団に所属し、演技が大好きな藤永は、その豊かな表現力と大仰な演技が災いし、オーディションに落ち続けて自信を失っていた。そんなある日、電車で出会った同じ大学の蛍都と知り合い、彼が使う手話というコミュニケーション手段に初めて触れることになる。手話を学ぼうとする藤永だったが、静止画や文字の情報だけではなかなか覚えられずにいた。そこで得意の演技を生かして無意識にCLに近い動きを見せながら、身振り手振りでの会話を試みる。藤永のその高い表現力を目の当たりにした蛍都は、視覚情報だけでその場の状況や言葉を伝えられる彼の才能に感動する。こうして、二人は交流を深めていくが、やがてその思いは友情を超えた感情へと変わっていく。
手話で結ばれる二人の物語
藤永は、蛍都と親しい関係を築く中で手話に親しむようになる。そんなある日、彼らが乗っていた電車が停電するというハプニングが発生する。停電中に蛍都からキスされた藤永は戸惑いを覚えるが、同時に彼に対する葛藤や不思議な感情が友情ではなく愛情であることに気づき、次第にすれ違っていた心が通じ合っていく。その後、物語は舞台編へと進展し、スクリーンでの活躍をあきらめた藤永は舞台俳優を目指すようになる。感情を伝えたいと願う二人が互いを尊重し合う心温まるストーリーや、演劇や手話を通じて距離が縮まっていく様子が見どころとなっている。また、舞台での活躍を通じて藤永の才能が多くの人に広まる一方で、蛍都が焦燥感や孤独を感じる場面も描かれ、二人のあいだに新たなすれ違いやもどかしい関係性が生まれる。
登場人物・キャラクター
蒼井 藤永 (あおい ふじなが)
文学部に在籍している大学3年生の男子。演じることが大好きで4歳の頃から劇団に所属しているが、演技が大げさすぎるために目立ちすぎたり、ほかの役者の演技を食ってしまったりすることが原因で、オーディションに落ち続けている。そんな中、1年生の前島蛍都と出会い、まったく知識のなかった手話を学ぶことになる。表現力や観察眼に優れ、人物だけでなく風景や自然にも溶け込む才能を持っており、蛍都から「カメレオンのようだ」と評されている。蛍都との交流を通じて、ドラマのオーディションをあきらめ、舞台俳優の道へ進むことを決意した。
前島 蛍都 (まえじま けいと)
教育学専門学部に在籍している大学1年生の男子。先天性難聴のために補聴器を使用しているものの、声や音をほとんど聞き取ることができず、主に読唇術や手話を用いてコミュニケーションを図っている。明るくおおらかな性格で、手話サークルのメンバーを中心にノートテイクを頼める友人もいるが、会話を途中であきらめた経験も多く、一般の人々とのあいだに微妙な隔たりを感じている。そんな中、蒼井藤永と出会い、彼の動作や表情だけで物事を伝える豊かな表現力に惹かれていく。
書誌情報
カメレオンはてのひらに恋をする。 3巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックスBLiss〉
第1巻
(2023-09-21発行、 978-4757587519)
第3巻
(2025-04-22発行、 978-4757598133)
カメレオンはてのひらに恋をする。 2巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンBLiss〉
第2巻
(2024-06-20発行、 978-4757592612)